ミニトマトを初めて育てたのはリタイヤ後の最初の年だった。ホームセンターから苗を買ってきて空き地に植えた。放っておいたらどんどん大きくなって花が咲き,実を着けるようになった。すこぶる簡単である。
ある日,近所の友人がやってきて,「これじゃあ駄目だよ」といって枝をポキポキ折り始めた。いくら友達でもそれはなかろうとムッとしたのだが,曰く「脇芽を取らないとトマトが暴れてとんでもないことになる」。
育てたことのある人ならお分かりだろうが,トマトをまっすぐに育てようと思ったら,茎と枝葉の間から出てくる脇芽を摘まないといけない。放っておくとこの脇芽が太い枝になる。ということは,最初1本だったトマトが途中から出てくるたくさんの枝のために全体がグチャグチャになってしまう。友人はそのことを言ったのである。
別の日,今度は親戚のおじさんが来て言う。
「脇芽はこうやって土に挿すとまたトマトができるんだ」
彼はそう言って摘んだ脇芽を土に挿して踏んづけた。えらく乱暴なやり方だったが,そのままにしておいたら本当にそこに根づいてスクスクと伸び,やがて立派なトマトになった。
これはいいことを教わったと,私はその後せっせと脇芽挿しをやって,その年はとんでもない量のトマトができた。これにはさすがのトマト好きカミさんも音をあげた。
もしもいい歳になって野菜でも育ててみようかと思うのなら,まずはぜひこのミニトマト栽培をお奨めしたい。どうも人間歳を取ると盆栽とか野菜とかに興味を示すようにできているらしいので,いずれわが身のこととして覚えておく価値はあると思う。
そして実際にその時が来たら,ぜひ試してほしいことがある。一般には言われていないようなので,私からの特ダネ的プレゼントである。それは「軒下栽培法」。
例えばホームセンターからミニトマトの苗を買ってくる。それを軒下の地面を掘って植える。地面がなかったらプランタ-でもいい。風で倒れないように支柱を立ててヒモで結んでおく。しばらくすると大きくなって例の脇芽が出てくるから,10センチほどの大きさになったところでポキンと折ってまた軒下の地面(プランター)に挿す。
これを繰り返すと10本ほどの苗がタダで手に入る。トマトとトマトの間は2メートルほど空けるから,合計10メートル以上の軒下が臨時のトマト畑になる。これで,真っ赤に完熟したトマトが嫌になるほど食べられるようになるし,その赤い実は花のようにも見えて家の周りを綺麗に飾ってくれる。
この栽培用のポイントはもちろん「軒下」。実はトマトは雨が苦手なのである。雨に当たると実が割れてしまう。だからプロはハウスの中で育てたり,トマトにビニールの屋根をかけたりする。しかし軒下ならこの雨は避けられるから,ハウスも屋根も要らず,楽ちんなのである。実際私がやってみて,実割れもせずに綺麗に完熟したので,保証付きだ。軒下がないならベランダでもいい。ぜひやってみてほしい。
軒下でやるならもう一つ。「横倒し栽培法」も試してみていただきたい。これはトマトを垂直に育てるのではなく,斜めに誘引して育てるのである。支柱を何本か立ててじわじわと横に伸ばしていく。垂直に育てる方法ではてっぺんをカット(摘芯)するからほどなく寿命を迎えるが,この横倒し法は伸びられるだけ伸びていく。
するとトマトは晩秋に枯れるまで成長を続け,実をならせ続ける。初夏から晩秋までだから相当な期間トマトが楽しめることになる。プロがやっている技だが,真似する価値はある。
ちなみに,病気や害虫対策は何もやらない。肥料もやらない。収穫量は落ちるが商売でやるのではないから頓着しない。無農薬・無肥料で育てたトマトは格別の味で市場価格も高い。それがほとんどタダで楽しめる。ミニトマト1本(+脇芽)は熟年世代をきっと豊かな気分にさせてくれる。
50代からの夢実現サロンメンバー 竹澤(66歳)