禁じられた遊び 

高校生の時にチャレンジした「禁じられた遊び」。言わずと知れたギターの名曲である。「愛のロマンス」が正式名前だが,映画「禁じられた遊び」のテーマ曲だったのでこちらの方がよく知られている。

シンプルなメロディーラインとトレモロが素敵な曲なのでギターを始めたらたいていの人がこれに挑戦する。そして,たいていの人が変調してからの演奏につまずいて挫折する。私もその「たいてい」の一人だった。

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やがて社会人になって,いつとはなしにギターから遠い生活になっていったが,サラリーマンを定年退職してからまた火が点いた。

「よし,リベンジだ!」

「これが弾けないまま人生を終ってなるものか!」

人に聞かれれば「ちょっとオーバーじゃない?」と言われそうだが,心底そんな気持ちになり,途中で投げ出さないよう高めのギターを買って再挑戦を始めたのである。

長いことギターに触っていないと,まずは左手にその証拠が現れる。弦を押さえる指先に弦の跡がくっきり残り,とても痛い。これがタコのように固くなるまで我慢して練習を続けるしかない。

それから弦を押さえる指はネックに垂直に立てる必要がある。こうしないと指が隣の弦に触れて音がびびってしまうからだが,柔軟性の衰えた指は悲鳴を上げ,ひきつってしまったりする。

右手にだって証拠は出る。「禁じられた遊び」の場合は,薬指を使ってアポヤンド奏法で強めに弾き,中指と人差し指はアルアイレ奏法で軽やかにトレモロを弾く。これがなかなかスムーズにいかない。もつれたり引っかかったり,散々である。

こんな風にしてヨロヨロと再スタートしたギターの練習が今年でもう3年となる。そしてその練習の結果,「禁じられた遊び」は遂にプロのように滑らかに,しかも最後まで弾けるようになった……と書きたいところだが,実際はとても人に聞かせられるレベルではない。いや,正直に言うと,もっとひどくて自分でも顔が赤くなるほどのレベルにとどまっている。

我ながら情けないし,こんなはずではなかったと思う。

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しかし,それでも高校時代のような焦りもないし,自己嫌悪にも陥らない。この辺が歳を重ねてきた強みだ。集中力はともかく,根気は間違いなく若い時より優っているし,自分への過剰な期待もない。まあ,こんなもんだという悟りみたいなものもある。そして「継続は力なり」であることも知っている。いつか何とかなる。諦めなければ失敗ではない。うん。

それに歳を重ねると結果だけでなく過程を楽しむ心の深さを持っている。上達すればそれに越したことはないが,上達しなくても挑戦を続けているというそのこと自体に満足を感じることができる。「俺,頑張ってるなあ」と。

それに,ギターの場合,左手と右手が全く別の動きをするし,動きが結構早い。ということは,これが脳ミソの活性化に相当いい効果をもたらしていることは間違いない。つまり練習をしているだけでいい結果を得ているともいえる。いわゆるボケ防止だ。

9歳になる孫は,私がギターを弾けるというだけで「じ~じ,スゴーイ!」などと言ってくれる。まだ「禁じられた遊び」の何たるかを知らないからだが,中学になればバレるだろう。それまでに何とかなれば自慢するし,何ともならなかったら孫が知らない曲でごまかす。歳を取ると賢くもなるのだ。